マーケティングの超必殺技講座「失敗するよりもユーザーに聞いてみたほうが100倍早い」

ユニット社へのヒアリングと田中の打ったマーケティング施策の分析から見えてきた仮説。

それは「継続的にコストがかかり続けるユニフォームを、組織の資源としてうまく活用していきたいというニーズが世の中にはあるかもしれない。」というものだった。

仮説を検証するべく、3人はマーケティングを深めていく。

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ふっふっふっふ…。

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田中、いつになくご機嫌ね。

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ああ、実はあれから僕なりにプランをまとめてきたんだ。

僕はモデルや読モ、女子大生とのネットワークを持っている。これを活かしてユニフォームの新パッケージを作れるんだ。

まずはユニフォームのデザイン案をいくつか考える。それをモデルや女子大生に見てもらって、「かわいい」「着てみたい」と思うものに投票してもらう。一番得票の多かったデザインを採択すれば、そのユニフォームがチームの広告塔になってくれて、PRの面でも求人の面でも組織をエンパワーしてくれるはずだ。

何なら完成したユニフォームの画像を、モデルや女子大生たちにSNSでシェアしてもらうところまでプランに含めてしまっても良い。

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うん、それ良いかも! 私も高校を選ぶとき、同じくらいのレベルの高校が2つあって、最終的な決め手は「こっちの制服を着たい!」だったなぁ。

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それじゃあさっそく企画書と料金プランを――。

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ちょっと待った。確かに面白い企画だが、具体的に動き出すのはまだ早いと思うぞ。

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あ、徳島課長代行!

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「まだ早い」って、大企業みたいなこと言ってたらユニットさん潰れちゃいますよ。桂山さんもハゲそうだし…。

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大企業病の問題は、ここですべてを保留してしまうところだろう。俺が言いたいのは、仮説検証をしっかりやっていこうという話だ。

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仮説検証って言っても、実際に企画をかたちにしないと、フィードバックは得られなくないですか?

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そんなことないぞ。

実際に企画を動かすとお金も時間もかかる。さっき田中が言っていたやつにしたって、モデルさんたち向けの企画書を作って説明したり、お客さん向けの企画書を作って営業したりしていたら1か月くらい時間を取られるだろう。

でも、本当にニーズがあるのか、欲しがっているのはどういう人たちなのか、いくらくらいなら出してもらえるのか。そういったことは、聞いてしまうのが実は一番早い。

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聞いてしまう…?

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いわゆる市場調査ってやつだ。

市場調査には大きく分けて、定性調査と定量調査がある。

定量調査の方が分かりやすくて、YES/NOや5段階評価など、最終的に数値で集計できるアンケート調査をイメージすると良いだろう。

定性調査というのは、数値化できない意見や雑感なんかを、インタビューやアンケートの自由記述なんかで集めていくことを指す。

ざっくりとした使い分けとしては、定性調査を通して消費者が抱えている課題がぼんやりと見えてくるから、それを元に商品やサービスのコンセプトを考える。それが本当に必要とされているものかを定量調査にかけると、成功する確からしさを事前に検証することができるんだ。

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なるほど、確かにそういうプロセスをしっかり踏めば、「作ってみたものの全然売れませんでした」みたいなことにはならなそうですね!

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ああ、ユニット社は正直相当追い詰められている。だからこそ慎重に、できるだけ打率を高めて動かないといけないんだ。

もちろんビジネスをするならいつもこのプロセスを取るべきというわけではない。例えばラーメン屋を開業するに当たって、「日本人はラーメンが好きか」みたいな自明なことを調査したって仕方がない。既に証明されていることではなくて、よく分からないことに適用していくと良い。

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インタビューするなら、ユニフォームについて良い記事書いてくれた看護師の子と復興ボランティアの子にも聞きたいですね!

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私、保育士と介護福祉士、それぞれ友達がいます。あとアマチュアのサッカーチームをやってる友達も!

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よし、頼んだ! インタビューにはインタビュアーの主観が入りやすいし、ついつい自分の持っている仮説の方へと誘導尋問してしまったりするから、一言断ってから録音しておいてもらえると助かる。

あとは母数を担保するためにも、アンケートも並行して取っていこう。

個人的な感覚だが、少なくとも30人くらいには話を聞いた方が良い。5人に話を聞いたくらいだと、吸い上げた要望がたまたま少数派だったということもありえる。その5人が何も問題意識を持っていなかった場合、「インタビューされたから何か応えなきゃ」とそんなに重要でもない課題を作話してしまうこともありえる。それだと俺たち3人で考えた妄想のビジネスモデルと大差ないものになってしまう。

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ううん、確かに!

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アンケートはどうやって取るんですか?

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対象が「普段制服やユニフォームを利用している人」と限定的であることを考えると、インターネットの力を借りるのが現実的だろうな。

大手のインターネット調査会社はモニターを何百万人と抱えているから、何百、何千というたくさんの回答を集めたいときに心強い。適当な回答をするモニターは日々除外してくれているから、精度を求めるときにも有用だ。

相場的には300人に20問くらいのアンケートを取って15万円といったところだろう。

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1人あたり500円くらいの計算ですね。

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もう一つ、クラウドソーシングのサービスも使える。クラウドソーシングというのは不特定多数のライターやエンジニアなんかに仕事を発注する仕組みなんだが、このサービス上でアンケートを取るようなこともできる。

この場合、対象にもよるが簡単なアンケートだったら1件50円くらい募集をかけても50件くらいは回答を集められるだろう。

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おお、コストが1/10くらいになるんですね…!

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そんなに母数を稼げなかったり適当な回答をする人を除外しにくかったりと問題はあるものの、その辺に目を瞑れるのであれば悪くない手だ。

一点注意したいのは、インターネット調査会社にしてもクラウドソーシングにしても、回答者は少なくともインターネットを使いこなすことができる、比較的リテラシーが高い層だということだな。ある程度バイアスがかかるのは避けられない。

とは言っても郵送調査や電話調査は専業主婦の返答率が高くなったり、そもそも少額の対価をインセンティブとする性質上、富裕層にはリーチしにくいという問題は避けにくい。そういったウィークポイントも把握した上で、うまく活用できたら最高だ。

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かの自動車王、ヘンリー・ フォードの名言に「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、 彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。」というものがありますが、これについてはどう思いますか?

つまり、本当のイノベーションはユーザーインタビューからは生まれないということを示唆していると思います。

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難しいところだが、俺はイノベーションにもユーザーインタビューは有効だと思っている。

具体的に何が欲しいのか直接聞いても的確な答えは返ってこないかもしれない。だが、抱えている根本的な課題自体は抽出できうるし、「世話がほとんどいらない上に普通の馬の3倍のスピードが出てしかも複数人が同時に乗らる馬(車)が欲しいか?」と聞いたらほとんどの人はイエスと言っていただろう。

要は使い方次第だということだ。

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なるほど、確かに。

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さて、それじゃあユニフォームや制服を取り入れている法人やチームに当たっていこう。できれば決済権のある人か、決済権のある人に影響しうる立場の人が望ましい。

聞きたいポイントは、

  • ユニフォームを制作する上で優先するポイント(金額/デザイン/コンセプト/納期/その他)
  • ユニフォームについて困ったこと、困っていること
  • モデルが「かわいい」と思うデザインを選んだ上に拡散までしてくれるパッケージがあれば検討するか(仮説検証)

といったところか。

田中、いったんこの辺まとめてくれるか? 仮説検証は他の案も思いついたら差し込んでもらって構わないぞ。

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任せてください!

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それを元にインタビュー用とアンケート用、それぞれの設問票を整理していこう!

数日後、インタビューやアンケート調査を終えたアイちゃんたちは、経過報告のためにユニット社を訪れる。

一同を受付で出迎えたのは、着物姿の好々爺だった。

よく来てくれたね。

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あ、五郎さん。ご無沙汰してます!

こちら、上司の徳島と私の同期の田中です。

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徳島と申します。

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田中です。

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五郎さんはユニットの先代社長さん。桂山大吉さんのお父様です!

大吉から話は聞いています。なるほど、あなたたちなら信頼できそうだ。

ささ、中に入ってください。


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