マーケティングの超必殺技講座「マーケター田中の敗北」

―― 10日前 ――

会社のプロジェクトとして顧客向けにデザイン講座を開催したアイちゃん、徳島、田中は、デザイン講座を大盛況のうちに収める。

講座の後、メイン講師を務めていた徳島に、どこか思い詰めたような表情で声をかける男の姿があった。

徳島さん!

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あ、桂山さん!

紹介します。私がいつもお世話になっている、ユニフォーム制作会社「ユニット株式会社」の社長でいらっしゃる、桂山社長です。つい一月前くらいに先代から代表の座を引き継がれたばかりなんですよ。

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どうも、徳島と申します。里平ともども、いつもお世話になっております。

桂山と申します。本日はご貴重なお話、ありがとうございました。終始うなりっぱなしでした…! 長丁場の後でお疲れのところと思うのですが、実はご相談がありまして…。

里平さんのおっしゃったように、つい1か月ほど前、父から会社の経営権を引き継ぎました。ところが情けないことに、早くも業績の見通しが悪いんです。

ユニフォーム制作を請け負う業態で、先代が築いた古い取引先がたくさんあって、これまで大きくはないものの、安定した売上を立ててくることができました。

ところが私が引き継いだ途端、取引先のいくつかが、他社と相見積もりにかけたいという話を持ち出してきたんです。

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ええ、なんでまた急に…!

他社もちょうど代替わりのタイミングだったり、もともとかなり無理をして取引いただいていたりしたようでして…。

加えて、どうも『マックスユニフォーム』というユニフォーム制作会社が営業に力を入れていて、うちの取引先に「見積だけならタダですから」と相見積を勧めて回っているようなのです。『マックスユニフォーム』は競合というのもおこがましい業界最大手で、うちの30倍くらいは規模のある会社です。

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なるほど、今が正念場なわけですね。

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マックスユニフォーム、社長さんもイケメンですね。(毛量も多い…。)

はい。このままでは最悪取引先を失うことになりますし、何とか免れても売上総利益は間違いなく減るだろうという状況です。

ここは何とか既存の取引先に頼り切るのではなく、新規の取引先を開拓していかねばならない状況なんです。

しかし良くも悪くもこれまで古い取引先との関係で長く事業がうまくいっていたせいもあって、うちにはプロモーションや営業といったノウハウが一切ありません。

うちにはパートさんも含めると30人の従業員がいて、彼らの生活を保証するという役目が私にはあると思っています。

小さな会社ですので従業員の者も会社の危機を我が事のように受け止めてくれていて、飛び込み営業など、自主的にサービス残業をしてまで会社の立て直しに協力してくれています。しかし慣れない業務に疲弊してもいて、根性だけではどうにもならない壁を感じています。

そこで恥を忍んでお願いしたいのですが、徳島さん、あなたのデザインスキルと、アイキャッチャー株式会社の広告のノウハウで、我が社を救っていただけないでしょうか!

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ううん、なるほど…。

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課長代理、私からもお願いします! いえ、私もお力になります。

従業員の方々もそうですが、桂山さんはそれよりももっと――。

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分かりました。どれくらいお力になれるか分かりませんが、お引き受けしましょう。

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って、ええ!

「労働集約的な仕事はお前の業務じゃない」が口癖の課長代理が、二つ返事で…!?

ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!!

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僕も力になりましょう。

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田中!

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申し遅れました、里平とは同期の田中です。お話は伺わせていただきました。

私は企画営業職としてアイキャッチャー社に勤める傍ら、これまでプロモーション・コンサルタントとして個人でもたくさんの企業を支援してきた実績があります。きっとお力になれるはずです。

みなさん…。大変心強いです! 何卒よろしくお願いいたします!!

 

こうしてアイちゃん、徳島、田中の3名は、ユニット株式会社「第二の創業」を引き受けることになったのだった。

ユニフォームの製造工場と併設されているため郊外に位置するユニット社へと向かう道のりを、アイちゃんと徳島は並んで歩いていた。

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ユニット社の危機、絶対に救いましょうね!

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ああ。まぁそんなに簡単なものではないが、ベストは尽くそう。

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あ、着きました、ここです!

 

インターフォンを押し、名前を告げるアイちゃん。

スタッフが姿を見せ、事務所奥の打ち合わせスペースへと案内してくれる。

ノックをしてドアを開けると、そこにはユニット社社長の桂山と田中の姿があった。

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田中、どうしてここに…!?

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ふふふ。実はアイちゃんと徳島部長代行に先駆けて、この案件については既にアクションを取らせてもらっているんだ。

今日はその結果報告のために、30分前からアポイントをいただいていたのさ。

はい、田中さんにはインフルエンサー・マーケティングと、コンテンツ・マーケティングをこの1週間実施していただきました。

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インフルエンサー・マーケティング…?

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インフルエンサー・マーケティングというのは、タレントや読者モデルなど、発信力のある人にブログやTwitter、Instagramで商品やサービスを広げてもらう手法のことだ。

タレントに限らず、10年間ブログを続けてきたアマチュアボディビルダーや、ファッションセンスの優れている主婦など、一般人にもインフルエンサーと呼ばれる人は多くなっている。

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僕は学生の頃に、学生モデルを中心とするインフルエンサーと企業をマッチングする団体を立ち上げていて、今もそこのアドバイザーをしているんだ。インフルエンサー・マーケティングはお手のものだよ。

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もう一つのコンテンツ・マーケティングというのは、商品を直接広告するんじゃなくて、読みものとして価値のある記事を配信して、遠回しに商品の良さを訴求するような手法だ。

例えば下記の記事『「職務発明」について弁理士さんに聞いてみた』では、職務発明で発明者にはどれくらいの対価が支払われるべきかといったお役立ち情報を記事にまとめつつ、文末では「職務発明のケアもしっかりしている株式会社ニューロープで一緒に働きませんか?」と求人につなげている。

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読みものとして楽しめる、役に立つ記事を配信することで、検索エンジン経由やSNS経由で多くの読者に読んでもらえることが期待できる。

10人に頑張って広告を見てもらうより、1,000人にお役立ち記事を見てもらう方が費用対効果が高いんじゃないかというようなマーケティングだ。

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たくさんの人にユニット社のことを知ってもらうには、どちらも有効そうですね!

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実際に数値にも効果は表れているんだ。

モデルや読モ、インフルエンサー10人に記事を書いてもらったところ、20万人近くのユーザーの目に留まることになった。

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これは広告効果として試算すると500万円以上の計算になる。

項目をちょっと説明しておくと、媒体というのは何で告知をしてもらったかを意味している。Twitterなのかブログなのか、インフルエンサーによって主戦場が違うから、それぞれに得意領域を選んでもらっている。

ファン数というのはTwitterやInstagramでのフォロワー数、月間PVというのはブログが月にどれくらい見られているかをそれぞれ示している。

「imp」というのはimpressionの略で、どれだけ一般の人の目に留ったかを試算したものだ。twitterやinstagramだとファンの5人に1人くらいが見ていて、ブログだと毎月20記事くらいが投稿されているから単純に全体PVの1/20が実質PVだろうと試算している。

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20万人…!? すごい!!

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コンテンツ・マーケティングの方も悪くない。

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RAVERとMARYは一般人が記事を作って掲載できる、キュレーションプラットフォームだ。

ユニット社のウェブサイトにページを作っても読者に届ける術がないけど、キュレーションプラットフォームに載せると、切り口さえ面白ければRAVERやMARYのユーザーに読んでもらうことができる。

SEO的にも有利だと言われていて、早い話、googleやYahoo!のような検索エンジンでの検索結果上位に記事が表示されやすいから、長く読まれる可能性が高い。

インフルエンサー・マーケティングに比べて短期的には総impが高くないけど、これは来週も来年も読まれ続ける記事たちだから、長期的な視点で見るとこっちも大成功と言って差し支えないんじゃないかな。

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田中、すごい!

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大したPVだな。

桂山さん、ちなみにこの施策で注文はどれくらい上がりましたか?

それが、実は具体的な注文にはまだ繋がっていないんです…。

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んん、そうか。でもまぁ、コンテンツの方はずっと読まれ続けるので、一年中営業マンの代わりをやってくれるようなものです。すぐに結果に表れなくても――。

た、大変です…!

どうしたんだい、中村くん、そんなに慌てて…。

あ、お打ち合わせ中でしたか、失礼しました。でも大変なんです!

今しがた、会社の問い合わせフォーム宛にこんなメールが送られてきたんです。

こ、これは…!

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田中、記事はどういうフローで作ったんだ?

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う…。記事のタイトルまでは僕の方で考えて、後はまだ大学にいる後輩たちに頼んで作ってもらいました。

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画像は?

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ネット上のそれっぽい画像を引っ張ってきて使っています…。

そ、そうなんですね…。

社長、ひとまず記事については直ちにすべて非公開手続きを取って、フォトグラファーさんにも謝罪のメールを送りましょう!

そ、そうですね。すまないですがお願いします。

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うう…。

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この穴埋めは必ずします。あと1週間ください。俺、絶対に結果を出します!

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田中、分かっていると思うが、人の著作物を勝手に使って記事を作って配信すると、著作権法の公衆送信権や複製権に抵触する。これを法人がやると刑事告訴の対象にもなる。

もともと写真を撮ったりイラストを制作したりするのにはコストがかかる。写真で言うと、プロのカメラマンが事前に打ち合わせをした上に照明なんかの機材を車に乗せて現場で撮影をして、その後も写真を選別したりレタッチしたりといった手間をかける。1現場3万円なら安い方で、腕の立つフォトグラファーだと10万円かかることだってある。

学生のアルバイトを使って1本1,000円で記事を作っていると分からなくなってくるが、実際には画像著作者から何万円も搾取するような構図になっている。

最近はクリエイターも敏感になっていて、組織的に画像の無断利用を摘発しては利用料を請求するという取り組みを行っている。

何よりものづくりをしていこうとしているチームが、クリエイターの著作権を無視するようなことは絶対にやってはいけない。

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刑事告訴…!

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インフルエンサー・マーケティングにしたって、今回に限って言うとそんなに筋の良い施策とは言えないな。

今回施策に協力してくださったモデルさんのSNSやブログを見た限り、ファッションやコスメの情報を発信している方がどうも多いようだ。フォロワーや読者にも若い女性が多いし、コンテンツを見るマインドも「きれいになりたい」「きれいなモデルさんを見てテンションを上げたい」といったものになっている場合が多い。

「よし、じゃあユニフォーム発注するか!」とはなりにくいだろうな。

決済権のある人に、必要としているタイミングでいかにアプローチしていくかが重要になってくる。そのためにも、事前のヒアリングやマーケティングがとっても大事なんだ。

我々はマーケティングのプロかもしれないが、商品や顧客のことは我々よりも桂山さんやユニット社の従業員の方がずっとよく分かっていらっしゃる。闇雲にプロモーションをかければ良いというわけではないんだ。

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うう、俺…。

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田中…。

田中さん…。

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だが田中、お前はすごい!

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…え?

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自分の判断で、リスクを取って実際にアクションを起こすということは、なかなかできるものじゃない。今も昔も、ほとんどの人間が指示待ち体質だ。指示を待ってその指示に従って動けば失敗しないし、失敗したとしても自分の責任じゃなくなるからな。

だから田中、お前は偉い!

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だから田中、一緒にヒアリングしよ! 田中の行動力は私も尊敬しているよ。みんなで考えて、一緒に成功に近づこう!

私からもお願いします。

これまでユニット社には閉塞感しかありませんでしたが、今回の取り組みでたくさんの方々にうちのことを知ってもらって、実は社員もみんな喜んでくれていたんです。

田中さんにはアクションを取る大切さを教えてもらいました。

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徳島課長代行、アイちゃん、桂山さん…。

ありがとうございます、俺、頑張ります!

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桂山さん、今回の件、本当にご迷惑をおかけしました。画像の無断利用については、私の方からも今回の経緯を含めてフォトグラファーさんに連絡させていただきます。

我々にもう一度、チャンスをください。絶対にうまくいくとは言い切れません。でも次は、もっとうまくやってみせます!

はい。ぜひお願いします!


まとめ読みしたい、非デザイナーのためのデザイン講座シリーズ

1. 要素は揃えれば大体うまくまとまる!

2. 発注先のデザイナーには、とやかく言ったほうが得?

3. センスがなくてもデザインはできちゃう?

4. 視線誘導のテクニックがデザインの水先案内人!

5. 構図が “センス” と言われるものの正体?

6. デザインの足し算・引き算で余白をコントロールする

7. 写真素材を活かすも殺すもレイアウト次第!

8. テキストは写真と並ぶビジュアル要素になりうる?

9. 理論武装すれば配色も怖くない!

10. パワポでデザインのクオリティを上げるテクニック


本記事で使われているイラストなどの素材は、『アイキャッチャー』内ですべて無償で配布されています!

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