アイちゃん、田中、高崎、徳島たちの連携のもと、クライアントへのヒアリング、ロゴを初めとしたグランドデザイン、フィードバックを受けてのブラッシュアップと、プロジェクトは順調に推移していた。
ユニフォームのデザインも各所フィックスし、サンプルチェックでもOKが出始めて、いよいよ製造工程に差し掛かろうかというところ、またも緊急事態が一同を襲っていた。
大変です。製造を依頼する予定だった提携工場が、急にキャンセルを申し出てきたんです。追求してみたところ、マックスユニフォームからの発注が割り込んできて、「この依頼を断れば今後発注を一切しないこともありえる」と脅されているのだそうです…。
慌てて他社にもオファーをかけて回ったのですが、すべて断られてしまいました。
繁忙期というわけでもないですし、さすがにここまですべての工場が埋まっているということは考えにくいです。どこもマックスユニフォームから圧力をかけられていると見て間違いなさそうです…。
そんな。せっかくここまで来れたっていうのに…!
全部うちの工場でやったら良いじゃないですか!
岩倉さん…!
そうは言っても、24時間工場を稼働させるくらいの無理をしないと納期には間に合わないですよ…。
俺が夜番をします!
申し出は大変ありがたいのですが、そしたら昼を回す人がいなくなってしまいます。今から人を採用して育てるような暇もないし…。
おい、入ってこい!
岩倉が後ろを振り向いて声を上げる。
それを合図にぞろぞろと男たちが部屋に姿を現した。
こんにちは!
この方々は…?
マックスユニフォームから引き抜いてきました。
実は先月からマックスユニフォームに「うちに来ないか」と誘われていて、土日も工場を稼働させていると言うので行ってみたんです。
現場を見て愕然としました。休みもなく長時間労働をして現場を仕切る正社員と、単純作業に延々と取り組む学生や派遣社員たち。作業スペースもギュウギュウで、とてもではないが人間としての尊厳を保てるような環境ではありませんでした。
作業を徹底的に細分化することで一つの作業にだけ習熟させる、あのやり方で中国の一部の工場なんかは日本の熟練した職人に引けを取らないクオリティを実現していますが、モチベーションを保つのは難しいと思います。短期的な入れ替わりを見込んだオペレーションの組み方ですね…。
社長と話せば「うちのような大手に身を置けばこの斜陽産業でも安泰だし、常に取引先の有意にも立てる。とにかく案件が多いから他社の3倍成長できるし、頑張って結果を出して上層部に入れば給料も高く、仕事も現場に任せられるようになる」というようなことを言っていました。
仲間には体調を崩したやつが少なくないし、そうでなくても何年も続けられる仕事ではないとみんな考えています。作業員たちを人として扱えないわけですから、人間関係を築くこともできないし、私たちの感じるストレスも相当のものです。
でもマックスユニフォームを辞めたら、私たちには行き場がない。社長が同業他社には圧力をかけていて、再就職できないように立ち回っているんです。だから辞めることができないし、過労で倒れたって会社を訴えることもできない。
幹部や各工場拠点の責任者といったポジションに就くことを希望に、真面目に取り組んでいるやつらがほとんどです。
だから俺は彼らを連れてきたんです。
正直、このプロジェクトで新規案件が入ったと聞いて、驚きました。
こう言うと失礼ですが、社長はこれまで俺たちがどんな意見を上げても、「検討させてください」の一言で片付けて、結局何もしてくれなかった。
それが今、リスクを取ってアクションを起こしてくれている。
話をアイちゃんから聞いて、俺も力になりたいって思ったんです。
岩倉、さん…。
社長、俺たちは俺たちのやり方で、本当にお客さんのためになるものを作りましょう。大きくはなれないかもしれないけど、マックスユニフォームの反勢力になりましょう。
今、人を雇うことの怖さは分かります。会社の寿命を縮めることになるかもしれない。でも、やるだけやってダメだったら、俺たちは社長を恨んだりしません。全力で取り組んだ経験は、最悪転職を迫られたときにもものを言うでしょう。
みんなでアクセルを踏んで、マックスユニフォームをぶっちぎりましょう!
岩倉さん、心強いです。本当に、本当にありがとうございます…!
現場のマネジメントは俺たちに任せてください。それから、アイちゃん――!
はい、こちらも準備は順調に進んでいます!
準備、というのは…?
熟練工さんたちがお仕事しているところを、どんどん動画で撮影させてもらっているんです。インタビューもさせていただいて、その動画にテキストで解説も添えていっています。
ユニット社では、仕事が属人化してしまっているところがあります。離職率が低いとあってこれまではそんなに支障がなかったのかもしれませんが、これから臨時職員を雇ったりもしていくことを考えると、教育コストがかかりすぎます。
そこで活躍するのがマニュアルです。属人化している仕事内容を動画とテキストにまとめる。それをWebにアップして、関係者の誰もがスマホでいつでもチェックできるような環境を構築していきます。
これなら新しい作業員の方が入ってきても、熟練工さんたちがOJTに時間を取られることなく、スムーズに仕事を回せるようになります。
す、すごい。これが大企業のやり方ですか…。
いつも「定型業務はマニュアル化しろ!」って徳島課長代行がうるさいんです。
うちの会社は基本的に総合職採用なので、部署間、支社間での異動が少なくありません。だから仕事を属人化させずにマニュアルに落とし込んでいく必要があるんです。
マニュアルを作り込む作業自体はすごく面倒なのですが、実際に作ってしまうとアルバイトさんにも気軽にお願いできるし、その後が本当に楽になるんです。
これはユニット社さんでも使えるなと思って、岩倉さんにご協力いただきつつ、進めてきました!
本当に感謝と感心しかありません。
僕も頑張らなくては…!
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